DOLが英語能力要件の明記を厳格化
米国労働省(U.S. Department of Labor:DOL)は、外国人労働者が商用車(Commercial Motor Vehicle:CMV)を運転する職種について、連邦法上の英語能力要件(English Language Proficiency:ELP)を、労働認証のJob Orderや申請書に明記するよう求めるガイダンスを公表しました。
この取り扱いは、2026年6月15日以降に提出される申請から適用されます。
一見すると物流業界だけに関係する措置に見えますが、その背景には、トランプ政権による道路安全政策、移民・外国人労働者政策、英語を米国の公用語と位置づける政策があります。
米国で事業を行う日系企業にとっても、外国人ドライバーの採用だけでなく、物流会社や配送会社などの委託先を管理する上で、注目しておきたい動きです。
「新ルール」ではなく既存ルールの執行強化
まず理解しておきたいのは、新たな英語資格制度の導入ではないという点です。商用車ドライバーに対する英語能力要件は以前からFederal Motor Carrier Safety Administration(FMCSA)の規則で定められており、ドライバーは以下の能力を有していることが求められていました。
- 一般市民と英語で会話できること
- 英語の道路標識や信号を理解できること
- 警察官や検査官からの質問に回答できること
- 報告書や運行記録を英語で作成できること
今回のDOLガイダンスのポイントは、こうした既存の要件を、外国人労働者を採用する際の労働認証手続にも明確に反映させることです。これまで申請書に英語能力要件を明記していなかった企業についても、今後は統一的な対応が求められます。
言い換えれば、「これまで比較的柔軟に運用されていた部分について、今後は採用・ビザ・路上検査まで一貫して厳格化される可能性がある」ということです。
DOLとFMCSAの役割の違い
今回の制度を理解する上では、DOLとFMCSAの役割を分けて考える必要があります。
DOLのOffice of Foreign Labor Certification(OFLC)は、外国人労働者を雇用するためのJob Orderや労働認証申請を審査します。
FMCSAは米国運輸省(U.S. Department of Transportation:DOT)の下部機関であり、主に次の業務を担当しています。
- 商用トラック・バスの安全規制
- ドライバー資格管理
- 路上検査
- 運転時間管理
- 安全違反の取締
つまり、DOLが採用・労働認証段階の書類を確認し、FMCSAが実際の運行現場でドライバーの資格や英語能力を確認する、という関係です。
雇用主に求められる対応
外国人労働者が商用車を運転する職種については、H-2A、H-2B、PERMなどの労働認証申請において、英語能力要件を明記する必要があります。
記載がない場合、労働省は申請の審査を停止し、修正が完了するまで手続きを進めません。
そのため企業は以下の見直しを行う必要があります。
- Job Description(職務記述書)
- 求人票
- 採用広告
- 募集要件
- 労働認証申請書類
また、採用面接の段階で英語能力を確認する重要性も高まります。
FMCSAは雇用主に対し、実際の業務やDOT検査を想定した英語でのコミュニケーション確認を推奨しています。 単に日常会話ができるかではなく、運行業務や安全管理に関する内容を英語で理解し、説明できるかが重要になります。
路上検査での確認が厳格化
FMCSAは、路上検査において、商用車ドライバーが連邦規則上の英語能力要件を満たしているかを確認する方針を示しています。
検査では、主に次の能力が確認されます。
- 英語での受け答え
- 道路標識の理解
- 運行記録や輸送書類の説明
- 検査官からの質問への対応
つまり、採用時に英語能力を確認して終わりではなく、実際の業務現場でも継続的に求められる要件であることを理解する必要があります。
また、英語能力評価においては、次のような補助手段を使用できないとされています。
- 通訳
- 翻訳アプリ
- I-Speakカード
- カンペ(Cue Card)
- スマートフォン翻訳機能
つまり、「翻訳ツールがあれば問題ない」という考え方は通用せず、ドライバー本人が英語で対応できることが求められます。
運転停止が事業に与える影響
FMCSAの運用指針では、英語能力要件を満たしていないと判断されたドライバーは、注意や警告ではなく、その場で運転継続が認められなくなる可能性があります。ドライバーが運転をできなくなると企業には、次のような影響が生じる可能性があります。
- 配送遅延
- 顧客対応への影響
- サプライチェーンの混乱
- 追加コストの発生
自社でドライバーを雇用していない企業にも影響
日系企業の中には、自社でドライバーを直接雇用せず、物流や配送を外部の運送会社に委託しているケースも多いでしょう。
今回のDOLガイダンスが直接義務を課すのは、外国人労働認証を申請する雇用主です。
しかし、委託先のドライバーが英語能力要件を満たしていなければ、荷主企業にも間接的な影響が及びます。
たとえば、次のようなリスクが考えられます。
- 委託先のドライバーが運転停止になる
- 配送スケジュールが変更される
- 顧客への納品が遅れる
- 代替輸送の費用が発生する
- 安全監査や取引先監査で問題となる
物流を外部委託している企業も、委託先がFMCSAのドライバー資格要件をどのように確認しているか、見直しておく必要があります。
人材不足とコンプライアンスの両立
米国では長年にわたりトラックドライバー不足が課題となっています。そのため、多くの企業が外国人労働者の活用を進めてきました。一方で、今回のような規制強化によって採用要件はより厳格になります。
企業は、以下の3つの課題を同時に満たさなければならなくなります。
- 人材確保
- 安全管理
- コンプライアンス(法令遵守)
今後は採用人数を確保するだけでなく、「法令要件を満たした人材を確保する」という視点がこれまで以上に重要になるでしょう。
日系企業が確認しておきたいこと
外国人労働者をCMVの運転を伴う職種で採用している企業は、まず次の点を確認しましょう。
- 対象業務が連邦規則上のCMV運転に該当するか
- Job Orderや労働認証申請書にELP要件が記載されているか
- Job Descriptionや採用広告と申請内容が一致しているか
- 面接時に業務上必要な英語能力を確認しているか
- 採用後も路上検査に対応できる状態を維持しているか
- 委託先の運送会社が同様の管理を行っているか
まとめ
今回のDOLガイダンスは、外国人トラック・バス運転手に新しい英語試験を課すものではありません。これまで存在していたFMCSAの英語能力要件を、外国人労働者の労働認証手続にも明確に反映させる措置です。
一方、運行現場ではFMCSAによる英語能力の確認が行われ、要件を満たしていない場合には、運転停止となる可能性があります。企業には、採用、労働認証、ドライバー資格、路上検査、委託先管理までを一体として見直すことが求められます。
外国人労働者の採用を行う企業にとっては、「英語が話せるか」という一般的な語学力の問題ではなく、安全に商用車を運行するために必要な英語能力を、本人が実際に備えているかが重要になります。
今後も、移民政策、労働政策、道路安全政策が連動する形で、外国人労働者の資格要件に対する確認が強化される可能性があります。
該当する企業は、採用書類や選考方法、委託先の管理体制を確認しておきましょう。
<参考>
DOL Tightens English Proficiency Rules for Foreign Truck Drivers
https://www.shrm.org/topics-tools/news/dol-english-proficiency-rules-foreign-truck-drivers
DOL Tightens English Language Rules for Foreign Driver Hiring
https://news.bloomberglaw.com/daily-labor-report/dol-tightens-english-language-rules-for-foreign-driver-hiring
US DEPARTMENT OF LABOR REINFORCES ENGLISH LANGUAGE PROFICIENCY REQUIREMENTS FOR FOREIGN WORKERS OPERATING COMMERCIAL MOTOR VEHICLES
https://www.dol.gov/newsroom/releases/eta/eta20260514-0


