雇用関連法のアップデートが例年にも増して広範囲に及び、企業の労務・コンプライアンス担当者にとって早期の準備が不可欠となっています。通知期限の短縮や追加説明義務、報告内容の拡充といった“実務運用に直結する変更”が相次ぐため、「後から対応する」では間に合わない可能性があります。
本記事では、2026年に施行される主要な労務関連法のポイントを整理し、企業が押さえておくべき具体的な対応の方向性をまとめます。
カリフォルニア州最低賃金の引き上げが正式決定
消費者物価指数(CPI)の上昇を受け、2026年1月1日から州の最低賃金を一律 $16.90 に引き上げることが正式決定しました。
押さえるべき3つのポイント
1. 企業規模に関係なく全ての民間企業が対象
全ての雇用主に$16.90が適用されます。
2. Exempt区分の最低給与基準も上昇
Exempt区分の給与要件は最低賃金に連動するため、最低年収は $70,304(または月額 $5,858.67) へ引き上げられます。給与が基準を下回る場合、Exempt区分を維持できなくなる可能性があります。
3. ローカル条例
サンフランシスコ、ロサンゼルス、バークレーなどは、州より高い最低賃金を設定しているため、別途確認が必須です。
SB-464(Employer pay data)賃金データ報告義務の強化
従来、従業員100人以上を抱える企業は、年次で賃金・人種・性別別のデータを報告する義務があったが、さらに強化がされます。より詳細な報告制度になるため、企業は 記録管理・データ収集体制を整える必要があります。
- 職務カテゴリーを拡大:現在の 10カテゴリーから 2027年1月1日以降、23カテゴリーへ。
- 属性データ(人種・民族・性別など)は人事記録とは別に保管を義務づけ。プライバシー保護と分析データの明確な管理を狙った設計に。
- 2026年以降、報告義務を果たさない場合には民事罰金が必ず科される仕組みへ。1回目100ドル/従業員、再違反200ドル/従業員となる。
SB-642(Employment: payment of wages):求人時賃金表示・同一賃金請求権の強化法改正
既存の「均等賃金法(Equal Pay Act)」を強化し、賃金格差の是正・透明性の向上を目的としています。
- 従業員15名以上の雇用主は、求人投稿時に給与レンジを記載する必要があります。
- 雇用主は職位ごとに給与履歴を保存し、雇用終了後も3年間保管する義務があります。
- 賃金差別(性別・人種・民族・性別表現含む)が発生してから起訴できる訴求期間が3年となりました。
- 未払賃金の遡及請求は最大で 6年分まで拡大されました。
職位ごとの給与履歴、応募時の提示給与レンジ、求人票の記録などを整理し、雇用終了後も一定期間(3年)保存できる仕組みを整えましょう。
SB 294(Workplace Know Your Rights Act):新たな通知義務
SB 294(Workplace Know Your Rights Act) は2026年1月1日に施行され、企業に対して従業員への年1回の書面通知義務を新たに課す法律です。通知内容には、労災補償、移民当局による職場立入検査の通知義務、不公正な移民関連慣行からの保護、団結・組合活動の権利、職場での法執行機関との接触時の憲法上の権利(例:不当な捜索・押収、自己負罪拒否)などを含める必要があります。
加えて、以下の義務も課されます:
- 書面通知は 2026年2月1日までに初回実施(以降は毎年)
- 通知は 州労働局が作成するテンプレート(2026年1月1日までに公表予定)に基づいて提供
- 従業員が希望する場合、雇用主は面談の際に無償で弁護士の立会いを認める必要あり
- 通知を提供した日や通知方法の記録を3年間保存
- 従業員が職場内で逮捕または拘束された場合、雇用主は従業員の緊急連絡先に通知
⇨既存従業員には 2026年3月30日まで に緊急連絡先を指定する機会を提供。新規採用者には採用時に同機会を提供。従業員は勤務期間中いつでも更新可能。
AB 692(Employment: contracts in restraint of trade)「Stay-or-Pay契約」の制限
従業員が離職・契約終了時に「研修費用返還」「罰金・手数料負担」などを課される“Stay-or-Pay”が禁止されます。なお、2026年1月1日以降に締結される契約に適用されます。ただし、以下のような条件を満たす契約は合法とされる例外規定があります。
- 学費返還契約(Tuition Repayment):雇用契約とは別に締結され、資格取得義務が雇用条件ではなく、返還額・期間・プロレート(比例返還)等を適切に設計。
- リテンションボーナス(Retention Bonus)返還条項:以下のすべての条件を満たす場合には合法とされる。
- 返済義務に関する条件は、主たる雇用契約とは別の契約書に明記されていること。
- 従業員に対し、当該契約について弁護士に相談する権利があることを通知し、契約締結前に少なくとも5営業日以上の検討期間を与えること。
- 早期離職に伴う返済義務には利息が付されず、返済額は残りのリテンション期間に応じて按分されること。なお、リテンション期間は支払いを受けた日から最長2年以内でなければならない。
- 従業員には、返済義務が発生しないように、リテンション期間の満了時まで当該支払いの受領時期を遅らせる選択肢が与えられていること。
- リテンション期間満了前に離職した理由が、従業員本人の意思による自主的な離職、または従業員の不正行為等に基づく雇用主側の解雇であること。
また、2026年1月1日より前に締結された契約はこの禁止法の対象外です。
SB 590(Paid family leave: eligibility: care for designated persons):有給家族休暇(Paid Family Leave)対象拡大
有給家族休暇(Paid Family Leave, PFL)制度において、2028年7月1日以降、従業員が「指定家族(designated person)」の対象範囲が拡大されます。
「指定家族」とは、血縁・法的関係のある家族だけでなく、「従業員と家族同等の関係」を持つ者を含むと定義されます。
現行制度では、子・配偶者・親・祖父母・孫・兄弟姉妹・ドメスティックパートナーなどが対象であったのに対し、改正後は対象範囲が拡大されます。
従業員は指定家族の氏名・関係性を偽証罪(perjury)を伴う宣誓書形式で提出する必要があります。
申請時の宣誓書・関係性証明の手続きが増えるため、文書管理・プライバシー保護・社内承認ワークフローの整備が必要となります。
SB-303(Employment: bias mitigation training: unlawful discrimination):バイアス軽減トレーニングに関する新法
バイアス軽減トレーニング(例:アンコンシャス・バイアス研修)を実施した際、従業員が自らの偏見を認めたりテストされたりするプロセスが、逆に「差別・ハラスメントの根拠」とされるリスクが指摘されていました。
California Fair Employment and Housing Act(FEHA)を改正し、雇用主が実施する「バイアス軽減トレーニング」において、従業員が善意(good faith)で自らの偏見を認めた場合、それだけでは「違法な差別行為」には該当しないと明記しました。
本法により、こうした研修を実施する雇用主・人事部門にとって、トレーニング実施自体が法的リスクになる可能性を低減する枠組みが整備されました。
AB-406(Employment: unlawful discrimination: victims of violence)犯罪被害者・陪審員・証人としての休暇保護拡大
従業員またはその家族が「特定の暴力的犯罪(qualifying act of violence)」の被害者となった場合、あるいは陪審・証人として法廷手続に関与する場合などに、従業員が陪審員として召喚されたり、司法手続の証人として出廷するための休暇を取得する際に、雇用主が不利益扱い(解雇・差別・降格など)をしてはいけない規定が強化されます。
主な適用開始日:
- 陪審出席・証人出廷等に関する休暇の保護については適用済。
- 犯罪被害者等が司法手続(例:逮捕後の公判、起訴・量刑・仮釈放等)に関与するための休暇取得を保護する規定は、2026年1月1日以降施行。
AB-858(Employment: rehiring and retention: displaced workers):パンデミック時に解雇された従業員への再雇用・優先復職の保護を延長
既存の Labor Code Section 2810.8 に基づく「解雇された従業員」に対して、再雇用・優先復職の機会を提供すべき」という義務を定めた制度を延長するものです。既存法ではこの制度が 2025年12月31日まで 適用されていましたが、AB 858 によって 2027年1月1日まで延長されることになりました。対象となるのは、ホテル・空港ホスピタリティ・ビルサービス(清掃・警備・メンテナンス)業などの事業者が雇用していた“パンデミック関連の理由”で解雇された従業員です。
SB 446:Data Breach Notification Requirements強化
SB 446 は、2026年1月1日 に発効されるデータ侵害通知の要件を大幅に強化する法律です。企業はデータ侵害を把握してから30日以内に、影響を受けたカリフォルニア州居住者へ通知しなければなりません。
また、侵害が 500名を超える州民に影響する場合、通知した後15日以内に通知文書のサンプルを司法長官(Attorney General)へ提出することが義務付けられます。
通知文書は、平易で分かりやすい言葉で以下を記載することが求められるます。
- What Happened?
- What Information Was Involved?
- What We Are Doing
- What You Can Do; and
- For More Information
この新法により、企業にはこれまで以上に迅速で透明性の高い対応が求められます。
SB-617(California Worker Adjustment and Retraining Act.):大量解雇・移転・雇用終了時の通知義務強化
現行のWorker Adjustment and Retraining Act)を改正するもので、雇用主が大量解雇、大規模な移転、雇用終了を行う際の通知義務に対して、通知内容の詳細化と支援サービス情報の同時提供義務を追加するものです。
企業は、制度理解に加えて、実務フローや社内ルールのアップデート、管理職への教育、従業員とのコミュニケーション体制の強化など、より丁寧な運用が求められます。
複数の法改正が重なる2026年は、労務コンプライアンスの成熟度が企業評価にも影響する一年となるでしょう。
早めにアクションをとることで、リスクを最小化し、安全で公平な職場環境づくりを実現していくことが重要です。
<参考>
Wage and Hour Division by State
⇨各州の最新の最低賃金一覧
https://www.dol.gov/agencies/whd/minimum-wage/state
SB-464 Employer pay data
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB464
SB-642 Employment: payment of wages
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB642
Governor, First Partner mark Latina Equal Pay Day, sign Pay Equity Enforcement Act
https://www.gov.ca.gov/2025/10/08/governor-first-partner-mark-latina-equal-pay-day-sign-pay-equity-enforcement-act/
SB-294 The Workplace Know Your Rights Act.
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB294
California Legislature Passes Law Banning “Stay-or-Pay” Provisions: How Employers Can Prepare
https://www.fisherphillips.com/en/news-insights/california-legislature-passes-law-banning-stay-or-pay-provisions.html
AB-692 Employment: contracts in restraint of trade
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260AB692
SB-590 Paid family leave: eligibility: care for designated persons
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB590
SB-303 Employment: bias mitigation training: unlawful discrimination
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB303
AB-406 Employment: unlawful discrimination: victims of violence
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260AB406
AB-858 Employment: rehiring and retention: displaced workers
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260AB858
SB-446 Data breaches: customer notification
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB446
Don’t Delay! California Likely to Soon Require Data Breach Notifications to be Provided to Consumers Within 30 Days
https://www.fisherphillips.com/en/news-insights/california-likely-to-soon-require-data-breach-notifications-to-be-provided-to-consumers-within-30-days.html
Attorney General
https://oag.ca.gov/privacy/databreach/list
Local minimum wage increases 2026 by ADP
https://sbshrs.adpinfo.com/blog/your-guide-to-2026-minimum-wages
SB-617 California Worker Adjustment and Retraining Act.
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB617


