2027年の昇給率予測について、米国と日本では異なる動きが見られています。米国では、2027年の昇給率は3.5%前後で安定する見通しです。一方、日本では4.7%と依然として高い賃上げが予測されるものの、2024年、2025年の高水準からは徐々に鈍化することが予測されています。

日米の単純な昇給率の違いから、両国の企業が抱える人材・報酬上の課題について何が見えてくるのでしょうか。

米国:2027年の昇給率は3.5%前後

2027年の昇給率について複数の報酬調査が発表されています。人事・報酬コンサルティング会社Mercerが2026年7月に実施した、「Mercer QuickPulse U.S. Compensation Planning Survey」では、1,001の米国企業・組織を対象に2027年の昇給予測について調査しました。

その結果、

  • Merit increase(業績・評価に基づく昇給):3.2%
  • Total salary increase:3.5%

という結果になっています。

Total salary increaseには、通常の業績・評価・能力等に基づく昇給だけでなく、昇進による昇給、Cost-of-Living Adjustment(物価上昇に対応した給与調整)、その他の給与調整なども含まれます。

つまり、米国企業が2027年に想定する昇給率は3.5%ということです。
この3.5%という水準は、2026年の実績である3.4%とほぼ同じです。

Mercerのデータを見ると、米国の昇給率は、

→ 2023年:4.1%
→ 2024年:3.6%
→ 2025年:3.5%
→ 2026年:3.4%
→ 2027年:3.5%(予測)

と、コロナ禍後の高い昇給率から徐々に下がり、現在は3.5%前後で安定していることが分かります。

米国:「何%上げるか」から「誰に配分するか」へ

米国の報酬戦略を考えるうえで、重要なのは3.5%という数字そのものだけではありません。Mercerの調査では、企業の87%が2027年の給与予算をまだ暫定段階としており、経済の不確実性が報酬決定に影響すると回答しています。

限られた報酬予算を有効に使うため、企業は人材ニーズや、人材流出/重要人材の離職リスクの高い領域に重点的に昇給原資を配分する方向に動いています。

これは他機関の調査にも共通しています。例えばThe Conference Boardの2027年調査では、昇給に充てる予算は中央値3.5%である一方、業績・評価に基づく昇給に充てる予算は3.1%とされています。

その差は、人材流出防止のための給与調整や昇格など、別の報酬施策に使われることが想定されています。

つまり、「全員の給与を一律に引き上げる」のではなく、「限られた報酬原資を、事業にとって重要な人材にどう配分するか」という考え方が強まっているのです。

日本:2027年の賃上げ率は4.7%を予測

では、日本はどうでしょうか。日本については、春闘の賃上げ率が昇給率を考えるうえで重要な指標になります。

野村證券は2026年1月の「日本経済の展望」において、2027年春闘について、

  • 賃上げ率(定期昇給+ベースアップ):4.7%程度
  • ベースアップ:3.1%程度

と予測しています。

野村證券は、2027年も賃上げは継続するものの、そのペースは徐々に低下すると見ています。

「賃上げが終わる」という見方ではなく、高い賃上げ水準を維持しながら、徐々に例年の水準へ戻っていくというシナリオです。

日米の2027年の昇給率予測の違い

Mercerは企業に対し予算の調査している一方、日本の野村證券の数字は春闘における賃上げ率の予測です。したがって、「日本企業の方が米国企業より1.2ポイント多く昇給する」と単純に解釈するべきではありません。

しかしそれでも、両国の昇給の方向性を比較する材料としては非常に興味深い数字です。

なぜ日本の昇給率は米国より高いのか?

背景には、両国の労働市場が抱える課題の違いが見られます。

日本では近年、少子高齢化や人手不足を背景として、企業が人材を確保するために賃上げを迫られています。

日本では、単なる物価上昇への対応だけでなく、「人材を確保するために給与を上げる」という企業側の必要性が強く働いていると考えられます。

米国では「給与への不満」と「企業の昇給予算」のギャップが問題に

企業の昇給予算が3.5%程度で安定している一方、従業員の給与に対する期待は必ずしも落ち着いていません。

NerdWalletの調査では、米国の労働者が「公平で妥当」と考える年間昇給率は平均8.2%、中央値5%でした。

「公平で妥当」という感覚には、従業員の現在の給与水準、生活費、家族構成、キャリアステージなど、さまざまな要素が含まれます。

よって、「従業員が8.2%を求めているから、企業も8.2%上げるべき」という事ではありません。

しかし、企業側と従業員の期待との間にギャップが存在していることを知る事は、人事戦略を考えるにあたり重要なポイントです。

米国で重要になる「Pay Transparency」

こうしたギャップを埋めるうえで重要になるのが、Pay Transparency(給与・昇給基準の明確化)です。

  • なぜこの昇給率なのか
  • どのような基準で昇給が決まるのか
  • なぜ同じようなポジションでも給与が異なるのか
  • どのようなスキルや成果が給与に反映されるのか
  • 将来的に給与を上げるためには何が必要なのか

などを従業員に説明することが重要になります。

給与決定のロジックをどこまで明確にして開示できるかが、従業員の納得感・信頼を得られるかどうかに影響するでしょう。

日米共通のテーマ:「一律昇給」から「戦略的な報酬配分」へ

米国では、すでに企業が限られた報酬原資を、どの人材に、どのような理由で配分するのか戦略的に考える方向へ移行しています。

日本でも、人材獲得競争が続く中で、全員に一律の昇給を行うだけではなく、

  • 高い成果を出している人材
  • 希少なスキルを持つ人材
  • 市場価値が高い人材
  • 後継者候補
  • 定着リスクの高い人材
  • 事業戦略上重要なポジション

などに、より戦略的に報酬を配分することが重要になっていくのではないでしょうか。

そして、その決定を従業員にどのように説明するのか。Pay Transparency(給与・昇給基準の明確化)、Pay Equity(公平な給与・処遇)、Performance Management(人事評価・育成の仕組み)、Critical Skills(事業上重要なスキル)、Talent Retention(重要人材の確保・定着)といったテーマは、今後ますます報酬戦略と切り離せなくなっていくと考えられます。


<参考・引用>

2027 Pay Raises Expected to Hold Largely Flat Amid Cost Pressures
https://www.shrm.org/topics-tools/news/benefits-compensation/2027-pay-salary-raises-employers-decline-slightly

Here’s What Employees Say Is a Fair Annual Pay Increase
https://www.shrm.org/topics-tools/news/benefits-compensation/here-is-what-employees-say-is-a-fair-annual-pay-increase-

US employers stick with moderate pay increases for 2027, according to Marsh’s Mercer QuickPulse® Survey 
https://www.mercer.com/en-us/about/newsroom/us-employers-stick-with-moderate-pay-increases-for-2027

野村證券, 世界の中の日本「日本経済の展
https://www.nomuraholdings.com/doc/jp/investor/presentation/2026_0108_prem.pdf